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Saoirseというサイトの遊び場です。その他小ネタを書き綴る場所です。 日記もこちらへ移行しました。
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 このお話は、本家「Saoirse」で公開されている「火魅子伝」二次小説の「心映すは天と魔の狭間の鏡」という作品の一部です。外伝的な扱いであり、先作品内に登場する人物の過去のお話でもあります。
 ご興味のある方だけどうぞ。

 それでは、心天魔鏡より、本来ならば兎華乃の過去編であるお話の欠片、その妹である兎音の過去を、本人のまどろみより――どうぞ。

 正伝『空の女王』 異伝『赤金の将軍』第一話 出会い







 まどろみの中へ、墜ちていく。
  深く、深く、忘れ去ってもおかしくない記憶の底へ。


 何故今こんな記憶を思い出すのか。
  自問して自笑した。

『決まっている。……想ってしまったからだ』

 そう、想ってしまった。
  誰でもない、自分の心で。

 唯の部品であろうと誓った。
 わたしはわたしのまま、「わたしの思考」という機能を持ったままに。
 あの人の一部になると誓った。

 なのに、わたしは想ってしまった。
 決して、叶わない、叶ってはいけない想いを。


 だからなのか。
 今思い出すには『罰』という想いを浮かべてしまう。

 この記憶を夢見るのは。









『誓う。わたしは貴方を決して傷つけない。
 誓う。これよりわたしは貴方の一部になると。
 願う。ただ、貴女の傍で、貴女を護る事を。

 願い適うならば、誓おう。
       わたしは、貴女を決して裏切らない。

    ――永劫の、魂の契約に誓う』









 腐りきっていた。
 それは周囲もわたしも。

 物心ついた頃から、わたしの周囲には腐ったものしか存在しなかった。そして、わたしも同じように生まれながらに腐ったものだった。
 生まれてきた意味を、存在している意味を忘れたわたしの周囲。それは本来ならば先へ進むために生きているはずだった。だが、わたしの周りにいるのは、現状と微々たる前進しか望まない、本来の姿から腐りきった者達だけだった。

 その中で、流されるままに生き、最も腐りきった存在になろうとしているわたしもまた、生まれながらに腐っていた。



「ようやく、ようやくだ」

 わたしの目の前で万感の想いで打ち震えている父を見て、わたしは心底吐き気がした。

「ようやくお前が王となる時がきた。そう、私が王の父となる時が」

「……わたしの記憶が確かなら。選定の対象は、もう一人いると聞いているが」

「何を言う。お前だ。お前こそが王になるのだ。それこそ私の願いだ」

 嘘をつけ――お前が望んでいるのは「王の父」という立場だけだろう。

 目の前でなおも仰々しく語りだす父の姿に、わたしは心底辟易して視線を漂わす。
 目の前に見えるのは、わたしと同じ金色の髪、私と比べれば大分黒い肌。そして、まったく似合いやしない豪奢な衣服で身を飾った父。これが元は純血種の中では傑出した武人、伝説的な活躍までした我が国の英雄の一人だというのだから、時の流れと欲というものは、まったくもっておぞましい。

「よいか、時期に選定の儀式がくる。選定者がもう一人いるからといって、それを意識する必要はない。お前は選定の儀式を乗越える事だけ考えるのだ。なに、もう一人はあのアホウの子だ。放って置いても儀式を乗越える事などできんさ」

 これも何度聞かされたか分からない。すでに武人としての姿を失い、他人を貶める事になんの疑問も持たない父、そしてわたしが生まれた後に、もう一人の選定者が生まれてからは、その傾向は激しくなる一方だった。

「見た事もない相手を侮る事などできんな」

「ほう、見えないものを怯えている、わけではあるまい」

「ふざけた事をぬかすな。いかなる場合でも油断はしない。それが戦士の心得だろう」

 もっとも、すでに貴様の忘れてしまった心得だろうがな。

 一切の期待も持たず、記憶力すら乏しくなった父の相手をするのは、いささか、いや、かなり疲れるものがあるのだが、それでも日が近づいた近年では頻繁に似たやりとりをやっている事もあり、わたしとしても慣れたものだった。

「ふむ、ふむ、そうだ、さすが私の娘だ。いい、いいぞ」

 正直に言えば、こんな父でも昔は尊敬の念を持っていた事もある。幾度となく聞かされた英雄譚に胸躍らせ、憧れの思慕を募らせていた時期もあった。
 だが……。

「そう、お前が次代の女王となるのだ。そして、女王となった時――この父の子を産んでくれるな……」

 それも全て、この自己の存在すら消し飛びそうになる言葉を、最初に吐かれるまでのことだ。

 父は父としての目ではなく、男としての目でわたしを見てくる。舐めつけられるような視線は、常に感じる魔神の視線より薄気味悪く、吐き気を引き出してくれる。

「父よ、話は終わりのようだな。わたしは行かせてもらう」

 返事を聞く必要もない。すぐさま背を向けて部屋を出るために歩き出す。……ただ下半身に感じる父の男としての視線が心底嫌だった。



 何も珍しい事ではない。むしろ普通の事だ。それに嫌悪を感じるわたしのほうこそおかしいのだろう。それは、誰よりも自分がよく分かっている。

 他の血を混ぜる事のない魔人の血族は、その最初からが近親出産による増加を常にしている。始まりの二人、それが産む子と始まりの二人がまた交わり、さらにまた産む。そうして、産み増やし、自分達意外の血を一切混ぜる事をせずに高みへと進んでいく。それが魔人だ。

 純血種である父が、娘であるわたしに情欲を抱き、子を産ませたいと思う事は、極当然の事であり、わたしが優秀であり王族としての資格を持っている以上、決まりきった事だ。

 だからこそ嫌だった。幼い頃、優しげに接してきた父が、自分の栄誉を聞かせてきた父が、その全てが、わたしに子を産ませるための欺瞞の行動だったと言う事が。
 それならば、その頃に抱いた全てのわたしの気持ちは、ただそうなるように繰られていたという事ではないか。


 気付けば城の外、それも禁忌の地の近くまでわたしは歩いてきていた。これほどまで禁忌の地に近づくまで気付かないとは、わたしも相当きているらしい。

 迫る選定の儀式。女王を決める選定の儀式。これが、わたしを悩ませている。
 代々女王が一族を纏めてきた、わたしの一族、魔兎族にとっては、王族の資格を持ち、女であるからには、時期がくれば女王となるための選定の儀式を受ける事になる。そして、そこで女王に相応しいと選ばれたなら、その者は次代の女王として、一族を二つの意味で護っていく存在となる。

 だが、それが何だというんだ。
 女王となり一族を護る? くだらない、そんな事をしたいと誰が望んだ。今わたしが望んでいる事は、誰にも干渉されず、煩わしい一切の義務を捨て、月でも見ながら酒を飲む事だ。
 そもそも、女王となったからといって、何がある。

 女王になったなら、一族を外敵から護るため、一族最強の者として、敵が現れた時には先頭に立ち戦う。
 これはいい。別に戦う事自体は嫌いじゃない。向かってくる敵をなぶり殺し、その魂を自分のものにするのは極上の酒にも及ぶ快楽だ。

 だから、わたしが女王になるのが嫌なのは、もう一つの護るという意味の事だ。そう、一族を護る。それは血を絶やさない事、王族を絶やさない事。

 基本的に王族は女王からしか生まれない。極まれに生まれる事もあるが、それは力が弱い事が多い。つまり、女王のもう一つの役目は、子を産むことだ。そして女王は「王族」しか産めない。
 幾十、幾百、幾千、幾万の男と交わろうとも、王族しか生むことはできない。

 魔兎族は強い種だ。王族の数も多い、強い種だ。広大な領地を持ち、外敵に攻め込ます事すら稀なほど、強大な一族だ。
 だからそんな一族の中で、次代の王族を生む役目を持った女王がする事、それは戦う事じゃない。子をなすまで毎日毎日毎日、男に抱かれ続ける事だ。

 傑作な話じゃないか。選ばれる? 一族最強の存在? それが実は、ただ子を産むためだけの存在だっていうんだから。



「……っと」

 いつもならここまで深く思いつめる事もないのだが、今日はどうも考え込んでいたようで、気付けば禁忌の地へと入り込んでしまっていたようだ。
 体にかかる封印の力。それは痺れる様に「此処から先に入るな」と告げている。

「禁忌の地、か」

 実のところ、わたしはこの禁忌の地の事をあまり知らない。わたしより少しでも年長の者は此処が何なのか知っているらしいが、誰もそれを話してくれはしなかった。まあ、わたしも興味がなかったから入る事もなかったんだが。

「ふん、面白いじゃないか」

 どうかしている。面倒な事になるのは御免だ。そう思いながらも、先ほどまでの思考を少しでも遠ざけたかったのか、わたしはその禁忌の地を進んでいった。

 奥へ行けば行くほど、警告のような封印の痺れは強くなるが、王族にて女王候補になるほどの力を持つわたしにしてみれば、多少痺れるが堪えられないものでもない。それに術式には詳しくないが、これはわたしに向けられたものでもないらしい。どちらかというと、誰かを出さないための封印、そんな気がした。

「……まあ、それにしては強いな。まるでわたしにも反応しているようだ」

 多少の違和感が付きまとうが、それも珍しく顔をだしている好奇心というものを擽るにすぎない。



 そしてわたしがたどり着いたその場所。そこは洞窟だった。入り口だと思われる場所の傍に石碑が立っている。そこに書かれているのは、おそらくこの洞窟の名前だと思われる……。

「月魔洞……?」

 なんとも安直というか、そんなふうに思ってよく石碑を見れば、それがかなり古いものだと分かって少し考え方を変える。つまり安直な名前で決めるほど古くからそうあった、と。
 多少考えを巡らせたが、それよりも入ってしまえば答えは分かると、わたしは洞窟へと入ろうとして、その入り口で一度止まることになった。

 焼け付くような痛み。それはわたし達魔人にとっては珍しいもの。
 洞窟の一口で何気なしに手を伸ばした。それは本能的なものだったんだろう。伸ばした手が洞窟の領域に入った、その次の瞬間、指先に激しい痛みが走っていた。

「……なるほど、今までのは警告というとこか」

 面倒くさい。とっとと帰ろう。そんな考えが頭を満たす中で、その奥で聞こえた父の声に、逆の考えがわたしの頭を満たした。

「上等じゃないか」

 此処まできたら、この禁忌の地に何があるのか、最後まで見てやろうじゃないか。

 僅かに周囲の魔気の密度が落ちる。逆にわたしの体には力が満ちていく。
 それは暴食のように周囲の魔気を食い散らかし、自分の中へと取り込んで自己の存在を高める。きっと今のわたしの瞳は赤く輝いている事だろう。流石に顕現体までは出す気はないが、それでもわたしは全力で――歩く。

 それは王者が僕共に道を開けさせる様に、ただ歩く。それ以上の行為をわたしがする必要などないと世界に言い渡すように、わたしは封じられた洞窟へと歩く。

 それは絹の布を引き裂くように、わたしが歩いていった後には、洞窟の入り口にあった力場は引き裂かれ、その役割を終えていた。

「ふんっ」

 極当然の事、このわたしに立ち入らせない場所などあってたまるか。そう何処か考え、その考えにわたしは意識せず顔を顰めていた。くだらないくだらないくだらない。そんな考えは、あの父と同じではないか。こんな思考を持つ自分がくだらない。

 その思考を止めるために立ち入った禁忌の地で、それを思い出してしまったからか、わたしの中には苛立ちが溢れかえっていた。

 暗い洞窟、かなり進んだ先には光が見えるものの、それは普通の者なら、暗黒の中に入っていくようなもの。この入り口自体、立ち入る事を拒む一つの障害なんだろう。


 しばらく洞窟を進んで、わたしは疑問に思うしかなかった。
 おかしいといえばおかしい。最初の暗闇の部分を抜けた後は、僅かな光の中で洞窟内を見渡した。そして違和感よりも先に呆れた。ここは洞窟だったはずなのに、気付けば巨大な書物の貯蔵庫に来ていたのだ。
 周囲を見渡せば、その薄明かりの中壁と言う壁に並べられた本が見える。それは感じるだけで膨大な年月を経たと分かる書物すらもあり、さながらそこは記憶の坩堝だった。

「これは、凄いな……」

 綺麗に並べてある書のひとつをとれば、それは歴史書であったり、大昔の術式書であったり、はては過人の日記であったりまでした。

「凄い、んだが、でたらめだな……」

 そこにある膨大な記録。それをいくつか見てみて分かった事は一つ、これは魔兎族の記録だということ。それこそ最初がどれほど前だったか分からないほど長大な歴史を持つ魔兎族の、記録。
 それをこの洞窟内に敷き詰めているのだ。これは確かに禁忌と言われても仕方がないかもしれない。

 個人が手にするには大きすぎる知識の貯蔵庫。これが私欲に惹かれすぎた奴が手にすれば、魔兎族として大きな損害になりかねない。ならば禁忌の地として、極一部だけの存在だけが知り、他のものには禁忌の地として扱わせれば、必要以上に気を割く必要もない。
 そう考えて、はたと気付いた。
 わたしは最初から気付いていたはずだ。ここは「誰か」を閉じ込めるための地だと。

 思考が動かされた。惑わされた。見てしまった物のでたらめさに、そう、小さなでたらめさに納得させられかけた。

「なるほど、これすらも入らせないための障害か」

 恐らく、殆どの者がこの障害で止まることだろう。だが、わたしは気付いてしまった。わたしと何かを共通する「誰か」それに対して封印をかけていると、最初に気付いてしまった。
 だから、わたしはこの障害も越える。

「……まあ、酒のつまみに今度拝借しにくるのもいいかもな」

 少しだけ、ほんの少しだけ置かれている書物に未練を感じたが、今は気付けた楽しさに引き出された好奇心を満たしたい。

 先へ、先へ、何が居るのか。ここまでして隠す程の者。それは一体何者なのか。それを考えるだけで、うざったい頭の隅にいた塵が消える。


 そして、わたしは辿り着いた。
 魔月の光が地底湖に反射され、その広場を明るく染め上げている。
 その湖のほとりで、その小さな体を大きな岩の上に乗せて、その小さな手には大きすぎる書を持って、その存在はいた。

 脳天から何かが体中に入ってくる感覚。

 薄桃色の髪を肩口ほどで切り揃え、僅かに曲がったその髪は追ってしまった視線を、その紅い瞳へと誘って、そこから動けなくなる。意志がないようで、それすら大きな意思の塊の中にある、引き込まれそうな瞳。生気がない顔は幻想的なまでに白く、その紅い唇を映えさせる。


 それは「全て」だった。


 自分よりも長い年月存在した事が分かるのに、魔人としてはありえない未成熟な身体。少女の身体のまま、枯れ果ててしまった老人のような瞳をして、その存在はそこにあった。


 それは「運命」だった。


 少女の顔があがる。
 呆然とした顔で自分を見ているわたしに気付いたんだろう。書に向けていた視線がゆっくりとわたしへと向けられる。


 それは「確信」だった。


 合わさった視線が、ぴったりと瞳を向け合わせて、その時には全てを理解していた。わたしの頭がどれだけ追いつかなくても、わたしの身体が、魂が、それを理解していた。
 ああ、そうとも。



 ――わたしはこの存在を護るために生まれてきた。








 これが、出会い。

 わたしの全てを捧げて、護ると誓った「姉」との出会い。











 まどろみの中で夢を見る。

 出会いの夢を見る。

 今でも思う。それは間違っていなかったと。
 決して、間違ってなどいなかった。


 あの時、姉様と出会った事が間違っていたなど、ありえない。
  ありえない。だから、この想いは――罰。


 この胸を張り裂けそうなほど想ってしまったのは、罰なんだ。
















 あとがき

 ここまで読んでくれた人に感謝を~。
 そんなわけで、微妙に続き物でも書いてみよ~か~。
 という事で、書くなら火魅子伝物だよね。ってことで心天魔鏡より「空の女王」兎音視点のお話です。

 もう、なんていうか、普通に兎華乃主人公に書いてもいいんだけど、なんとなくそれなら本腰いれなきゃだし、本編で盛大に色々出てるしなぁと。
 ならば兎音視点でいいじゃないか!とか思って書き始めてみたり。なんか兎音さん書きやすいです、なんていうか冷静キャラ?
 んまあ、兎音さん視点なので、長編にはならないだろうという企みもあったりします!っていうか選定の儀式おわって虐殺式(ぉぃ)で終わりだもんね!

 そんなわけで、長くなっても中篇くらいの長さでしょーと、楽観して初めてみます。あ、正式なものに比べると多少甘いところがいっぱいあると思いますので、そこはご容赦ください。あくまで遊び心からです。

 次回は兎音と兎華乃のやりとりから?かなぁ、書きたいとこあったらそこから始めそうですが。とりあえず金髪君とかお馬鹿な子とかも速く出してあげたいと思ってます。


 作品についてのご質問などは後気軽にどうぞ~。
 ……それをネタに心天魔鏡辞典を増量させようとか思ったりしないよ、しないんだからね!
 …………するけどねっ!
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