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Saoirseというサイトの遊び場です。その他小ネタを書き綴る場所です。 日記もこちらへ移行しました。
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 この話は、このブログの本サイトである「Saoirse」で掲載されている「心映すは天と魔の狭間の鏡」のアナザーストーリー的なものです。
 そのため元を読んでいない方には分からないものだと思います。

 話の元は、心天魔鏡における第一章の最後の戦いで魔界に落ちた、魔兎族三姉妹のお話となります。

※この話は本サイトにて「龍虎」さんよりリクエストがあった「九峪×兎音」にお答えするために書かれた話です。


 それでは興味のある方だけどうぞ。





 薄ぼけた影。誰かが寝ている自分の顔を見つめている。
 でも眠い。まだ眠い。

 誰かが、と言っても、わたしに此処まで近づける存在なんて、二人しかいない。
 だから問題ない。別に寝顔を見られても困るわけでもない。

 だから、もう少し眠っていたい。


「……ね」


 だから、この声は幻聴。
 聞こえるはずがないし、近づいてきたのなら、わたしはすぐに起きているはずだから、この声は幻聴。だから眠らせてくれ。


「とね、……ろよ」


 でも、その声に聞き覚えがあった。
 そもそも、近づける二人は女で、こんな男みたいな声じゃない。
 だから幻聴でいいのか。寝てていいのか。

 そうだな。問題ない。


「兎音、いつまで寝てんだ?」


 ……聞こえるはずの無い声が、はっきり聞こえた。



「っっ……にっ!」

 頭が一気に覚醒する。聞こえるはず無い声、今その声を求めて旅をしているのだから、聞こえるはずがない。
 なのに、飛び起きて背後に感じるこの気配は。

「やっと起きたのかよ」

「……に、くた、に?」

「他の誰に見えるんだ?」

 わたしの目の前で、ふざけたように手を上げながら笑う男は、見間違えるはずもなく、九峪だった。
 あの蛇渇の罠で魔界に落とされ、二度と会えないかもしれないと思った、九峪だった。

「おまえっ、なんで!」

「ん、どうした?」

「どうしたじゃない! なんでお前魔界にいるんだ!」

 平然とした顔をして首を傾げるその仕草は、完璧に九峪のもので、間違えるはずが無く。そしてそれは、わたしと一緒に居るという事は、九峪が魔界に居るという事だ。

 魔界では人間は数日と持たない。
 世界に満ちる魔気の濃さが、入って来た神魔混合である人間を魔に造り変えてしまうから。人としての理性を失い、人としての姿を失い。ただ魔に支配される化け物になってしまう。

「姉様、姉様はどこだ!?」

 この状況をどうにかできるとしたら、姉様しかいない。どうにか姉様の知恵を借りて、わたしの力と合わせてでも生き延びさせないと――!

「魔界って、何言ってんだ?」

 そんな、すっとぼけた声が聞こえた。

「何をだと。お前がここにいるからだろう!」

「此処って、阿蘇の山小屋じゃん。ほんとにどうしたんだ?」

 ――――は?

 一瞬で思考が停止した。
 阿蘇の山小屋。そんなはずはない。わたしは魔界に落ちて人間界にいないのだから、ここが阿蘇の山小屋のわけがない。そう、そんなはずはないのに。

 九峪にそう言われて、ようやく感じられる空気。
 無駄にゆったりとした空気。そして少し息苦しくて、慣れればどうってことない大地氣構成。そして感じられない魔神の視線。

 それは紛れも無く、人間界の感覚。

「なっ、なんで……」

「やっぱあれか。残って正解だったなこれは」

「どういう、事なんだ」

「ははっ、多分兎華乃に思いっきりやられたせいで混乱してんだろ」

 思いっきりやられたって、どの程度やられたんだ。姉様の事だからそれはもう拘束して振り回して周辺を砂の大地にするぐらいの事は……って何を考えてるんだ。

「姉様は、姉様と兎奈美はどこだ?」

「ん、二人は耶牟原城に行ってるよ。ほんとは俺も行くんだったんだけどな。兎音が心配だったから残ったんだぜ?」

 耶牟原城。聴き覚えがある。確か耶麻台国の王城だ。
 だが何故だ。今は水に沈められていてその上に征西都督府があったはずだ。

「まあ、毎月の事でめんどくせぇけど、国になっちまったから、色々やっとかねぇとなぁ」

 どういう事か分からない。でも、此処に姉様と兎奈美がいなくて、九峪とわたしが二人で居る事。そしてここが阿蘇の山小屋だって事は確かみたいだ。

「悪いんだが、今までの事を教えてくれ」

「ん、何だよ。ほんとに記憶喪失かぁ?」

「いいから、……教えてくれ」

「わかった。どこから話せばいい?」

「……征西都督府での、戦いからだ」

「了解」


 そして、話を聞いた。
 それは途中までは覚えている通りで、途中からは全然違った。
 あの戦いでわたしたちは蛇渇の罠にはまって魔界へと送還されたはずなのに、なぜかあそこで気絶していただけで、数日後には目覚めたらしい。
 戦いは復興軍が勝利して、九洲は耶麻台国が支配しているとか。

 そして、神の遣いとして役目を終えた九峪は、国の中にいては問題が起きると、わたし達と一緒に阿蘇の山奥、つまりここに引っ込んだ、という事だった。

 だが、仮にも神の遣いと、人間界においては最強ともいえる上位魔人三人だ。敵対する気がないのは向こうも分かっているようだが、それでも所在だけは知っておきたいらしく、一月ごとに向こうへ出向くらしい。
 それで姉様と兎奈美は居ないと言うことの様だ。


「じゃあ、もう一緒に暮らして長いのか」

 わたしがそう洩らすと、九峪は心配そうな顔をしてわたしの顔を覗き込んでくる。
 そして顔を話すと大きく溜息をついた。

「はぁ……、ほんっとに覚えてねぇのかよ。もう二年以上一緒にいるのによ」

「二年……そんなにか」


 信じられなかった。確かに魔界へと戻って、姉様達と一緒に、人間界に戻るために故郷である北の大陸を目指していたはずなのに。

 感じられる。此処での事が本当で、あっちが夢だったんじゃないかって。
 手を握れば感覚がある、鼻には草木の匂いと、横にいる九峪の匂いも感じれる。
 耳には草木のざわめきが、九峪の吐息と鼓動が、そしてわたしの鼓動が聞こえるのに。

 なのに、どうしてこんなに不安になるんだ。

 いいじゃないか。そうだったのなら、忘れて変な夢を見ていたんだとしたら、それでいいじゃないか。そしてこのまま……。


「ほら、お茶。飲んでちょっと落ち着けよ」

「ああ……」

 受け取った湯呑みは暖かい。漂う匂いはそれが高麗人参の粉末で入れたお茶だと分かる。口に近づけ、それを一飲み。
 暖かい、そして体に力が入っていく。


 これが、現実なのか。


 お茶を飲むわたしを九峪が笑いながら見ている。その手には、普通に茶葉で入れたお茶がある。匂いで分かる。
 信じられないくらい、ゆっくりと時間が流れる。

 こんな夢のような事が、こんな望んでしまった光景が、現実なのか。
 現実でいいのか。

 そして九峪と二人っきりで……二人、っきり、で?


「兎音、どうした?」

 九峪がわたしの変化に気付いたのか近づいてくる。まったく、二年一緒にいたからといって馴れ馴れしく、優しくなったものだ。

「……なぁ、九峪」

「ん?」

「此処は、夢のようだな」

「なんだよ、いきなり」

 伸ばしていた足を曲げる。腰を浮かして九峪へと顔を寄せる。

「お、おい?」


 胸が痛まない。頭に言葉が響かない。体がソレを求めない。
 普通で、いられる。


 近づけた体は、自然と腕を伸ばして九峪を捕まえる。その腕は九峪の首の後ろへと回り、わたしの胸へと九峪を引き寄せる。

「兎音? どうしたんだよ!?」

 慌てる九峪。わたしと触れ合って恥ずかしそうにしながらも、嫌がらない九峪。


 胸が、痛まない。苦しく、ない。


 回した腕は九峪の頭を固定して、ゆっくりとわたしの顔へと近づける。
 そして互いの唇が触れ合う。

 感じる暖かさ、触れ合った肌の感触。行った行為への心の動き。
 それが全部、心の奥まで感じられた。


 でもこれは、幻の、幻想の、口付け。
 この時だけ、ただの一度だけ。



「と、ね?」

「幸せすぎて……」

 こんな未来があったなら、あり得たなら。

「あり得ないんだよ」

 だって、胸に痛みを感じないんだから。


「な、何がだよ。まだ混乱してんのか?」

 慌てるように体を離す九峪に、わたしはもう何も思わない。


「もし、姉様がお前を好きにならなかったら」


 こんな未来があった?


「もし、姉様がお前に興味を持たない上で、わたしがお前に興味を持てたなら」


 あり得ない状況。零に近い可能性。


「……こんな、未来もあったのかもな」



 わたしは瞳から零れる涙を拭かない。
 なぜなら、涙の向こう側で消えていっている小屋が見えているから。
 少しずつ薄くなっていく九峪の姿が見えているから。

 涙を拭いたら、その瞬間全て消えてしまうだろうから。


 わたしはどうあっても、これから何が起きても、九峪に恋心など表さない。
 なぜなら姉様が九峪を好きだと知っているから。

 姉様が九峪と居る事を望んでいるから。

 わたしの胸の奥の契約が、それを邪魔しようとする事を許さない。



 すでに小屋は無くなり、白い空間に薄くなった九峪の姿だけが見えている。
 その顔はいつのまにか驚きから笑みに変わっていて。
 ――最後までわたしの胸を締め付ける。



 気付いてしまえば簡単な事だった。
 どんなに離れていても感じられる姉様と兎奈美の気配を感じられなかった。それは二人が死ぬ以外にはあり得ない。
 そして姉様が死んでいるなら、わたしは生きているはずがない。

 だから、そんな事はあり得なかった。

 それでも調子がおかしいのかもしれない。そんな小さな可能性を、いや、望みを持って九峪に触れた。
 九峪に想いを持って近づく。それは姉様の邪魔する事。
 なのに、契約の縛りはわたしを縛らなかった。突き刺さる胸の痛みはなく。締め付けるような頭の痛みも無い。


 だから、――これは現実じゃない。



 消えていく幻。
 白い世界に薄まり消えていく幻想。

 笑い顔はもう見えない。ぼんやりとした影になった。

 だから、もう終わらせよう。


 わたしは涙を浮かべた瞳を、閉じた。


 真っ白で明るかったはずの世界の光りを、閉じた瞼が伝えない。まるで目の前に光りがないように。

 それが分かっているから、もう分かっているから。

 感じられる繋がりが分かるから。



 お願いだ。もう少しだけ眠らせてくれ。











 薄ぼけた影。誰かが寝ている自分の顔を見つめている。
 でも眠い。まだ眠い。

 もう少し、寝ていたい。


「さっさと起きなさい!」

 だけど現実は、優しく起こしてくれるなんて事はなかった。
 頭におそらく蹴りを入れられて、その痛みで目が覚める。


 開いた瞳は、紫色の空と蒼い月を映した。
 横になっていた体を起こす。

 そして後ろへと振り返る。


「まったく、いつまで寝てるつもりなの」

「兎音よく寝てたね~~」


 そこには手を腰に当ててご立腹の様子の姉様と、そんな起こっている姉様と起こられているわたしを見て笑っている兎奈美。

「姉様、痛いぞ」

「起きない貴方が悪いのよ」

 蹴られた頭をさする。

 ――痛み。

 目の前にいる、力のない姉様相手では、本来感じるはずのないそれは、すでに六百年以上前の契約が続いている事を教えてくる。

 それは自分で望んだ契約だった。
 共に生きようという証だった。

 何がなんでも、貴方と共に生きると決めた、誓いだった。

 それを後悔などする気はないし、する事もない。




 後悔など、しない。





 目の前に広がる大地、この広すぎる大陸の先に、異郷となった故郷がある。
 それが分かっていても、何も感じない。

 横では、姉様が何もない荒野を睨んでいる。

「さて、ようやく中央大陸ね」

 その顔は楽しそうにすら見えるが、その横では兎奈美が嫌そうな顔をしている。
 ああ、わたしもきっぱり言って嫌だ。

「ねぇ、姉様ぁ~~」

「なに?」

 睨み付けるような視線で兎奈美を姉様が見るが、兎奈美、負けるな、せめて一言いってやれ。わたしは言わないがな。言ってもどうしようもないし、今更だから。
 ……別に姉様の制裁が怖いわけじゃないぞ。

「ほんとに中央大陸を突っ切るの~~?」

「直線で行くのが一番早いでしょう?」

「ええぇ~~、でも~、中央大陸抜けるより船で回ったほうが絶対早いよ~~」

 軽く言う姉様に兎奈美が声を上げる。

 まったくもってその通りだ。中央大陸を横断しようなんて馬鹿なことを考えるのは、よほどの世間知らずか、文無し力無しの追い詰められた奴だけだ。
 普通に船で東部なり西部なりを経由して行ったほうが、早いし楽なのは明確だ。

 そんな兎奈美の声に姉様は少しの間黙ったが、切れたように兎奈美の方へと顔を寄せる。

「仕方がないでしょう! わたし達を見たら逃げ出すような奴等しかいないんだから!」

「うぅ~~、それは姉様が大暴れしたからだと思うな~~」

 兎奈美が姉様の勢いに引きながらも、目を逸らしながら文句を言う。
 ああ、いい度胸だ。兎奈美よくやった。だが、姉様の目は冷たく怖くなってるぞ。

「黙りなさい」

「あいたぁっ!」

 頭へ姉様の冠杖大刀が落ちた。何気にあれは痛いからな。

 そんな二人のやり取りを見ながら、わたしがそんな事を考えていると、周囲に気配が感じられ始めた。それに二人もふざけるのを止めて大地を踏みしめる。


 さて、幻の時間はとっくに終わった。
 幻想を見て酔う時間も終わっている。

 そして、体に残った幻想の酔いも抜けていった。


 だから、今は現実で会う事を考えて
               ――疾走るとしよう。









 最後まで読んでくださった貴方に感謝を。
 この話は兎三匹魔界漫遊記(これを書いている時点では、まだ連載前)の閑話的なものとなります。
 元々は最初に書いたとおりリクエストの作品でした。

 普通に書こうと思ったら、いつのまにか漫遊記に寄っていてこんなものになってしまいましたが。リクエスト主の龍虎さんに気に入っていただけたなら嬉しいです。

 それでは、またお目にかかることがあれば。
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リクエストに応えてくださって感謝!!(^^♪
どうも~龍虎です~
早速読ませていただきましたw
九峪とのやり取りは夢だったわけですが、いいですねぇ~w
苦しい(?)旅の合間に垣間見た穏やかな日常。
しかし過去の契約(中身は知りませんが^^;)によってそれが夢だと理解する。
そして静かに目を閉じて、現実へ・・・・・
いい(ボソッ
いいよぉ~へ(^-^)乂(^o^)ノ
夢オチみたいな感じだけど、なんかいいよ~ww

・・・・・自分でリクエストしておいて、まともな感想一つかけないとは・・・・・・_| ̄|○
しかし、実際契約なるものが無ければ、もしかしたら、ありえた話かも~
というか、九峪、兎華乃、兎音の三角関係というのが一番ありそうですが^^;
・・・・・・うん、今度暇を見て短編11作目として書いてみようかな・・・・・・(マテ
その前に10作目をさっさと出せって話ですよね^^;
実は全然進んでなかったり・・・・・
とりあえず、今月中には出すつもりです
よければ読んでやってくださいませm(_ _)m
龍虎 2006/07/18(Tue)01:49:17 Edit
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